秘密の地図を描こう
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シンの成績の効果ぶりは、ある意味見事だ。
「本当に感情に左右される奴だな」
データーを見つめながらミゲルが呟く。
「どうします? 一応、期待されているうちの一人なんですよね、彼」
それにニコルはこう言い返した。
「どうするったって……あいつ自身がどうにかしないとだめだろ」
イザークのように、と彼は言い返してくる。
「でないと、アスランになるぞ」
ぼそっと付け加えられた言葉に、一瞬、フリーズした。
「……ミゲル……」
数秒で復活できたのはつきあいの長さ故だろうか。
「言うに事欠いて、何という例えを出すんですか」
あんな風に、自分の考えが絶対、と言い出されたらやりにくい。しかも、シンはアスランのようにそれをごまかせそうにないから、とニコルは続けた。
「さりげなくひどいことを言ってないか?」
「……だまされたんですから、当然です」
あんな思い込みが激しくて他人の意見に耳を貸さない人間だとは思わなかった。そう続ける。
「まぁ、それはそうだがな」
自分もそれは思った、とミゲルもうなずく。
「あれで、自分がかけている色眼鏡を外してもう少し現実を認識できれば、キラがオーブに戻っても大丈夫だと思うんだがな」
果たして、そんな日は来るのだろうか。ミゲルがそう呟いたときだ。
「二人ともいる?」
表情をこわばらせたキラが飛び込んできた。
時間は少しさかのぼる。
シンは視線の先に周囲を見回しながら途方に暮れている人物を見つけた。
「あれ?」
その顔に見覚えがある。確か、先日、彼の元を訪れていた開発局の人間ではなかっただろうか。
「……レイがいれば確認できるんだが」
だが、彼は今はいない。
どうするべきか。
「困っている人を見捨てるのは、やっぱ、だめだよな」
死んだ両親もそう言っていたではないか。そう考えると、シンはまっすぐに彼に向かって歩いて行く。
「どうかしたのか?」
声をかければ、彼は驚いたように視線を向けてくる。だが、すぐにその口もろに柔らかな笑みが浮かんだ。
「ごめん、迷子になっちゃって……人を探しているんだけど」
そして、こう告げる。
「誰?」
ここにいるのだからアカデミーの関係者だろうが。そう思いながら問いかける。
「ニコル……アマルフィ教官、と言った方がわかりやすいのかな?」
そう言って小首をかしげてみせる仕草がかわいらしい。そう思えるのは、あるいは彼が妹と同じ色彩を身にまとっているからだろうか。
「教官なら、今、準備室じゃないかな。案内するよ」
こっち、と言うと、シンは歩き出す。
「ありがとう」
そうすれば、彼はすぐに追いかけてくる。
「それにしても……アカデミーの内部で迷子になるなんて」
ザフトの人間はみんなここに通うのではないか。
「僕は、現地任官だから。アカデミーで学んだことがないんだよね」
そうすれば、彼はこう答えた。
「現地任官?」
「そう。前の戦争ではよくあったことだよ」
さらに笑みを深めながらこう言う。
「そうなんですか」
確かにあの混乱期ならあり得るのかもしれない。シンはそう言ってうなずいて見せた。